ホワイトな保育園が出来るまで

ブラックだ、過酷だと言われる保育業界。ホワイトな保育園は実現不可能なのか?会計や労務を踏まえ、現場の裏話も交えつつ記載していきます。

残業や持ち帰り仕事は絶対にしない、と先に決めないと実現出来ない

前回は、当園の特徴である【正社員(保育士)が週休3日制】について記載した。

sakura-mirai.hatenablog.com

 

今回は、もう一つの特徴の残業・持ち帰り仕事無しについて記載していく。

そもそもとして残業無し・持ち帰り仕事無しを徹底しようとした理由は、前職にある。現在も非常勤職員として在籍させてもらっている会計事務所は、今でこそ当園に負けず劣らず(待遇では圧勝の)超ホワイトな事務所だが、5年前は激烈ブラック事務所だったのだ。(公表する許可は得ている 笑)

職場で残業が常態化していくと、次第に必要な残業とそうでない残業の区分がなされなくなる。職員の意識も低下し、【どうせ残業だしなーちょっとリフレッシュしようかなー】と謎のコーヒータイム(ただの休憩)が頻繁に発生したり、職員間コミュニケーションを口実にダラダラ話し続けていたり、非効率な作業の仕方に気付かない(見直しがなされい)などと、悪循環が発生していた。

事業者側も【本人達が頑張っても終わらないと言うんだし、採用も時代的に難航しているし、うちみたいな弱小は仕方ないか】となりがちで、当然にそんな組織の求人に魅力があるわけもなく、更なる悪循環に陥っていた。

ちょこちょこと軌道修正が出来るレベルではなくなっていたため、荒療治としてまずは【全員、いかなる理由があっても残業を禁止】とした。これによって【職員数×定時勤務では終わらない業務量】が完全に見える化され、勤務時間内の効率化も含めて全体の抜本改革を行った。

溢れる仕事は代表と私で、締切の迫ったものから文字通り【死ぬ気で】取り組んで終わらせていき、以来4年間全職員のノー残業(むしろ昇給もしながら定時の短縮が進んでいる)という実績を残しているのだが、この話は本題から反れるので割愛する。

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こういった経験をもとに、保育園を作る際に絶対のルールとしたことが【残業・持ち帰りを発生させないこと】である。みなし残業が含まれているとか、自主練習や自主研修などの名のもとに誤魔化しているとか、そういった裏技?も一切使っていない。

以下のように完全にルール化し、その上で【溢れる業務】は私がやる。これを徹底すれば、残業は発生しようがないのである。

溢れる業務を誰かに任せたいのであれば、追加採用をするほかない。法律を守り、適正に賃金を払う前提で採用が出来るかどうか。資金的な面でそれが無理なら、それは経営側の責任でしかないのだから、自らやるのが当然なのだ。

 

1.残業は保護者の遅延時のみと決める

必要な残業(労使の努力ではどうにも回避できない残業)として、保護者がお迎えに来られない時がある。こればかりは、規定で現場に2名の人間が物理的に存在する必要がある以上、私だけではカバー出来ず、職員も1名は絶対に残業となる。

その代り、残業代は延長保育料で賄えるように設定をし、きちんと1分単位で残業代を支給する。・・・といっても、現時点で発生例がないのだが。

発生例がないのは、保護者の皆さんのご理解と努力のおかげで成り立っているので、感謝しかない。ちょっと仕事が長引いてしまった!という時に大急ぎでお迎えに行く心理や、それが続くストレスは自分も経験しているだけに、お迎え時間に遅れないのは当然だとは思わず、皆さんのおかげという感謝は忘れずにいたい。

そして、こうして保育士が残業なく健全に働ける環境の構築には、他の企業の就労環境も影響をしていることを、少しでも多くの方に知っていただきたい。社会全体が【残業無し】になっていくと、子を預けて働く保護者の心身の負担も減り、我々も更に頑張ってよりよい保育を子どもに提供でき、子どもが明るく育つ未来への希望を持てるのだ。

 

2.保育士が保育以外のことをしない

子供達がいる時間帯に保育士がやるべきことの最優先は保育である。

では、子供達がいない時間とは?登園する前・降園した後に残されたわずかな時間。朝は部屋のセッティングをしながらざっと園児の家庭状況や申し送り事項のチェックをし、帰りは引継ぎ事項をざっと報告して締め作業をしたらそれだけで定時である。

ならば、保育士がやるべき業務をそれ以上増やさない。この徹底しかない。

ただでさえ保育中は気を配るべきことが多いため、そもそもとして頭の片隅に【未完の業務】があるのは保育の質にも影響が生じる。【未完の業務】のプレッシャーは、ちょっとの隙に【進めないと】という意識をもたらすため、「今なら集中して絵本を読んでいるから、ちょっと離脱してあの作業を・・・」「よく眠っているし、今ならちょっと別の作業に離れても・・・」と、徐々に【保育】と【その他の業務】の優先度が変わってきてしまうのである。

例えば、壁面飾りや製作活動の準備。【保育士がやる】前提ではなく【やらない】前提で内容を決める。事務庶務スタッフがいればまだいいが、いない場合は私1人でやるわけだから、頻繁に変えない、おおがかりなものはやらない、など【制約の中で取り組む工夫】もうまれる。

他園のケース(保育士がやる場合)で、どれだけ本人としてはなるべく時間をかけずに頑張ろうとしても、「手抜き」「〇〇先生の時はもっとすごかった」と他者から批判を受けてしまい、「ここまでしないといけないのか?」と疑問に思いながらも慣習から抜け出せずにいるケースもあるようだ。

壁面飾りが凝っていて毎月変わっていないと子どもに悪影響なのか?製作活動は豪華絢爛でないと子どもの発達を促せないのか?誰のための行事か?何のためにやるのか?限られた時間内なら、もっと優先すべきことはないのか?常に本質のところで考え、保育の質に問題のないことは、どんどん簡単にして効率化した方がいい。

「なんだか今日は皆して一斉に寝付いて、連絡帳も終わったし、誰もぐずらないし、暇だなぁ・・・」くらいの時には少しだけ保育士に手伝ってもらうこともある。でもこれは、単に【手伝ってもらえてラッキー】なので、【じゃあ次もやってもらおう】というのは禁止。

あんまり頻繁に手伝ってもらうと、意識が易きに流れるので、上記のような状態でもまずは保育士には【保育の知識をアップデートするため】の時間に充ててもらう(主に書籍で勉強)ことを優先している。

 

3.保育士が書類を作らない

書き物が多くって・・・という声をよく聞くのも保育業界の特徴だ。年間指導計画、月案、週日案と、子どもの保育のために規定で定められている書類が多い。当然に、これらを適切に作成して運用することで、子どもに質の良い保育を提供できるのも事実なので、書類をなくせと言っているわけではない。

しかし、劣悪な労働環境では、中身よりもひとまず書類を作ること(形式の仕上がり)が優先され、前年の丸写しで内容を書いた本人もほぼ理解していなかったり、記載の計画が現場実態に見合っていなかったり、作った書類を振り返ることもないままだったり・・・ということも発生しがちで、それでは本末転倒である。【そんな書類は】作る必要がないのだ。

当園では、書類作成自体は全て私が行い、保育士が担うのはその日の連絡帳作成のみだ。これは小規模園で常に全ての状況を私が把握できる環境にしてあることが大きいだろう。

書類作成無しに保育士がいい保育が出来るのか?という点については、【規定の書式をとりあえず埋めた何か】を作る事に時間をかけるのではなく、【何が目的で、どう活用するか】のポイントを抑えて随時フィードバックしていくことで、書類を自分で作らなくても良い保育を行うことは出来るのである。

そもそもとして、書類の主旨は大筋こうだ。

月齢や発達の理論をもとに大枠の計画を立てる(年間指導計画)→実際の子どもの1人1人の発達状態をふまえて、ある程度の見通しを立てる(月案、週日案)→実際に活動をし、遊びや生活を通して状態の観察する(当日の記録)→計画と記録を踏まえた反省や振り返りと、翌日以降の保育案の修正(週日案)→繰り返し

書類作成にあたっては、語彙力や作文力など保育とは別の能力の得意不得意もついてまわり、そこに苦手意識がある(時間のかかる原因がある)保育士も少なくない。そして主任なり上の先生が赤ペン先生のように添削をして、再提出をして、という手間も発生している。そこに時間をかけるくらいなら、作文(文章作成そのもの)は得意な者(私)が担い、現場に入っていても把握しきれない児の情報は各保育士から口頭でヒアリング(書類で提出させるよりも短時間で終わる)→翌日以降の保育で必要な情報はまた口頭で共有して、時短化を図りながら保育に反映する方が、遥かに効率的で成果を上げられるのだ。

自らの希望でスキルアップのために書類作成に挑戦したいという職員もいるが、午睡中に保育士配置が十分である時間のみを書類作成に充てている。

 

4.字を書かない

当園には文字を【書く】文化も無い。園管理は連絡帳を含めて全てITシステムを活用するため、文字は入力するのみだ。

機器もPC、タブレットスマホと各種揃え、各自が最も得意とする機器を用いて入力をする。PCが苦手な職員が時間をかけてPC入力をしたり、タイピングを練習することに時間を割くくらいなら、普段から使い慣れているスマホで入力すればいと考えている。

【綺麗な字で】【間違えないように】手書きをするのは、相当に時間がかかるため、基本的に手書きをするものは園には存在していない。昨年までは一部に手書きが発生していたが、より効率化するために本年1月からシステムも入れ替え、手書きは存在しなくなった。

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 手書きの方が温かみがあるとか、様々な価値観もあろうが、果たしてその温かみは保育士が自らを犠牲にして劣悪な労働環境で疲弊してまで維持すべきことだろうか。

 

5.話は常に園長直通

全ての職員がどんな小さなことでも、速やかに直で私に話をすること、としている。

これは、伝言ゲーム式のミス防止、言った言わないが発生するリスクを無くすため、職員間で話し合ってから私に報告が来ても二度手間になる(企業主導型の制度など様々な規定に照合して判断すべきことが多く、それらの規定の全てを職員が網羅的に常時把握するのは非現実的)などの理由からだ。

また、職員間で相談や調整をする習慣が生まれると、いつしか序列が発生して「〇〇先生の機嫌を取らなきゃ」「〇〇先生の顔色を窺わなきゃ」という環境につながることも懸念している。

「主任に嫌われたら終わり(教材などの許可が下りない、やりたい保育が出来ない)」とか、嫌がらせをされるとか、保育業界に限ったことではないかもしれないが、人間関係によるトラブルが本質のサービス低下を招くのはよくない。

余談だが、開園後にビックリした事件があった。「園長先生にオムツなんて捨てさせて申し訳ありません」と謝りに来た保育士がいたのだ。私も別の児のオムツを変えて捨てに行く時に、その先生もオムツ変えをしていたのを【動線上の合理性】から拾っただけなのに、追いかけてきて謝るのである。

自分がやりたくて開いた園であり、何かあった時に最終的な責任を負うのが私の役目である。そのために園長と名乗ってこそいるものの、現場に入っている時には皆と同じ現場の一員でしかない。足元にオムツがありながら、【園長だからオムツを捨てない】などという非合理な選択肢は私には無いのにも関わらず、序列の世界が身に染みている保育士には謝罪すべき事態だったわけだ。

誰かの機嫌や顔色のために、子どもが後回し、非効率な判断(行動)をするのは全く意味がない。「大人を見ずに子供を見てください。」開園からずっと繰り返し伝え、それぞれにその瞬間の子供にとっての最善かつ効率的な動きが出来るようになってきた。

人間だから、機嫌が悪い日もあろう。生理などでイライラしがちな日もあろう。誰かの言い方にちょっとカチンとしてしまう日もあろう。でも、それは各自が解決すべきことで、他者が機嫌をとってあげるべきことではないのだ。

 

こんな感じで残業無し・持ち帰り無しを実現しているが、結局、私が1人分の人件費で2人分の保育シフトをこなし、加えて夜+日曜にも仕事をしているだけ、というのが現状のカラクリだ。

通常の園では、そこを職員が担うと考えると、【通常の保育園で残業・持ち帰り無しが無理】【予算的にも残業代が出せない】となる理屈も理解は出来る。(だからといって、残業代を払わなくていい理由にはならないが)

とはいえ、無理と決めてかかって残業ありきの環境を続けると、悪循環しか生まないことも、その環境が続けば続くほど断ち切ることが出来なくなることも、嫌というほど経験してきたからこそ、残業・持ち帰りというやり方での解決は絶対にしない

更なる効率化や機械化なり、採用なり、別事業からの投資なり、どんな形であれ、他の方法で解決する以外に、保育士が疲弊しない明るい園の未来はないと信じ、日々努力するのみである。

 

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